インターネットすやすや

嘘ときどき現実、見方により法螺話となるでしょう

それは時差よりも手強い

「クリスマスどうすんの?」

「うーん、バイトかな…って、もう来週か、はやいね」

「あれっ、彼氏と別れたの?」

「いや…今ボストンにいるんだって」

「ああ留学か、そうだったそうだった」

「へえー、留学。あの人が。意外」

「そうそう、秋から。だよね?」

「うん、1年ね」

「長いなあ」

「長いよねえ」

「えーでも夏から全然会ってなくなかった?もうとっくに別れてると思ってたわ」

「うん、実際全然会ってなかった。夏かなり働いてましたからね…」

「インターンですねわかります」

「その状況で遠距離やばいのではないですか」

「東海岸時差すごいよね。真逆じゃん。13時間?14時間?」

「いや、意外に時差があるほうがいい気がする」

「ほう。それは興味深いですな」

「後学のために聞いておきたいですね」

「参考にする見込みあるの?」

「今のところ0%ですね」

「まあ、2012年はニューヨークに住んでるフォトグラファーと恋に落ちるかもしれないね」

「ホワイトハウスに勤めるアメリカンエリートと電撃結婚するかもしれないね」

「そうだな、お互いの生活してる時間がかぶるのが、24時間のうち一瞬しかなくなったから。そうするとその時間に合わせようって努力するじゃん。で、その他の時間はお互い自分の生活に集中してられるじゃん。って言葉にするとなんか身も蓋もないけど。」

「あー、ちょっとわかるかもなあ」

「正直デートするとき一番めんどくさいのって日程合わせることだよね…」

「だよね……」

「同じ大学で毎日のらくらしてたり家まで近かったりすると、どうせがんばって遊びに出かけなくてもいつでも会えるもんねって頭よぎるよなあ」

「そう思ってるとずるずる会わなくなるんですよね…」

「わかるわかるよ…まさにそれだよ夏のわたしは…!デートしなくていいのはいいね。Skypeしかできない」

「チャット?音声?」

「場合による。でもSkype偉大だと思う。まじで。世界平和への第一歩だわ」

「私設平和賞あざーす」

Skypeない恋愛キツいよなー考えられない…。メールも電話も楽しいけどお互いキーボードかちゃかちゃしながらおしゃべりしたいわ」

「それは遠距離じゃなくてもするのでは」

「はいもちろん!同じ部屋でな!」

「無言の部屋に響くキーボードの音」

「おなかすいた~ってチャット飛ばすとかね」

「あるあるすぎる」

「画面越しでも声聞けると嬉しい、顔見えるともっと嬉しい」

「のろけ出たよ…」

「これが夏まで愚痴ばかりだった彼女だなんて信じられません!劇的ビフォーアフター!」

「倦怠期は留学でリセット!」

「ananで特集組もう。“時差を恋のスパイスに!超遠距離恋愛のススメ☆”」

「ニッチすぎませんかお姉さん…」

「いやでもこの感覚けっこうあると思うよ!恋人が留学すると!そんなことないのかな!わたしが変なのか?わからんw」

Skype最高に楽しいし時間泥棒すぎるけど、それでも直接会うことに到底かなわないよね」

「電話がない時代は今すぐ声が聞きたいって思っただろうし、Skypeない時代は目の前で表情見れたらいいなって思っただろうし、どんどんテクノロジは夢を叶えてるけどそれでも人類は貪欲だね、全然満たされないね」

「技術の発展のためにいっぱいがんばってくれた偉い人達ごめんなさい」

「どんなにイライラしてても怒ってても次会ったら絶対!言ってやる!!と思ってても、顔見ると許しちゃうことあるよね…」

「そりゃ西野カナも震えるわ」

「会いたくて会いたくて」

「今度ウェブカム越しに震えてみるわ」

「で、まりちゃんはクリスマスどうするの」

「……えっと、彼氏とニューヨーク…ですね」

「はあ????」

「おいわたしと代われよニューヨークからボストンなら近い」

「代わっても、わたしの彼氏とニューヨーク行くっていう謎展開に…」

「彼氏に会いにいくために他の男と…」

「逆にそれおもしろくない?」

「なにがだよw クリスマスいいな…絶対超きれいじゃんニューヨーク…」

「楽しみだなー☆☆おみやげ買ってくるね☆てへぺろ~☆」

「…とりあえずリア充爆発しろ!でいいのかな」

「爆発しないほうのお姉さんはいい加減恋人はいらないのですか」

「だから毎回言ってるじゃん」

「はいはい」

「知ってる知ってる」

「つかみどころのない彼ね」

「字義通りな」

「みなさんご唱和ください」

「「「恋人はインターネット」」」