インターネットすやすや

嘘ときどき現実、見方により法螺話となるでしょう

ワンルーム・ディスコ

もしもーし? うん、今大丈夫、さっき家戻ってきた。え? テンション高い? そうかなあ、緊張してたからかな。まだ疲れを感じるほど慣れてすらいないから。つらくないよ、やっぱり東京は忙しいけど、へいきへいき。お正月……は帰れそうにないよ、だってわたしの仕事その時期が一番忙しいからね? って、わかってて聞いてるでしょ。意地が悪いな。今さらか。

案外荷解き早く終わったよ。実家にいた時の半分くらいしか服も本もなくてなんか自分が小さくなったみたいで変な感じ。部屋すごい気に入ってるんだ。ワンルームで狭いけど。キッチンも薄暗いけど。窓を開けると駐輪場が見えて、少し歩けば大きな川がある。駅から帰ってくる途中に和菓子屋さんがあって冬だけかわかんないけどたい焼きが売ってておいしそう。まだあんまりちゃんと見れてないけど……周り歩いてみたら楽しくなると思うな。楽しみ。まだスーパーしか行けてないもん。…ちゃんと自炊してるよ? でも簡単なものしか作ってない。とりあえず野菜切って煮込めば料理になるから、トマト缶て偉大だわ。ありがたい発明すぎる。もはやトマト食べ始めた昔の人が天才、って人類の進歩に思いを馳せるレベル。いやー、でもうっかり食べ過ぎそう。鍋いっぱいに作って、家に帰ってきてぼーっとしながらむしゃむしゃ食べるじゃん。朝起きると予想以上に減っててびっくりする。1人でごはん食べるのまだ慣れないけど、コンビニでアイス買ってきても冷凍庫がいっぱいで入らなくて途方に暮れたりしないし、缶ビールにまだ半分くらい残ったまま気まぐれに梅酒の水割りを並べてなめててもどっちか片付けろって怒られないし最高だよ。なんだかね、帰ってきてもおもしろいこともないし、ただお酒飲んだら1日が終わった!って気持ちになるから。うん、飲み過ぎないようには気をつけます。

東京はもっと怖いところかなー、と思ってたけど全然そんなことないや。人は多いけど息はしやすい。知らないことばっかりだから路線図を覚えるだけで楽しい。代官山、渋谷、六本木、こういう位置関係なんだ、とか。そんなの今までそんなのおしゃれな雑誌の中の単語だったもの。この駅で乗り換えればあの場所へ行けるってちょっと不思議だよ。

びっくりしたことなー……あ、あった、夜が明るい。昼間みたい、街の明かりが。コンビニの店先も駐輪場の蛍光灯も妙に白すぎるよ。星はそりゃあそっちよりは見えないけど、でもオリオン座、めっちゃきれいだよ。他の星が見えないからすごい目立つよ。毎日駅から歩きながら、あれがベテルギウス、あれがリゲル、って小学校の理科で覚えたことを思い出してる。知り合いがいないから星くらいしか挨拶する相手がいない……ってなにそれ超さみしい人みたいじゃん!

――いやいや違うから。別にさみしくないから。さっきからそう言わせたいみたいだけどそうじゃないから! だってまだまだわたしはこの街で楽しいことたくさん待ってるんだよ。そんなね、あなたのことを考えたりさみしがっている時間なんてないんです! ざまーみろ!

……でも、うーん、ええっと、そう、もっと喋りたい。隣で同じもの見ながら楽しいこともっと喋ろう、新しいこと考えよう。はー、笑わないでよ、だから言うの嫌だったんだ。くそう。

もうね、なんでもいいから早く来て、早く。めいっぱい早い新幹線で来て。仕事早退して早く来て。トマト煮込みと雪見だいふくと一緒に待ってるから。

音楽をかけて朝まで喋ればいいでしょ、このワンルームで、踊る代わりに。


 

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