インターネットすやすや

嘘ときどき現実、見方により法螺話となるでしょう

寒い日のガトーショコラ

「どーする?」
「うーん、ガトーショコラ」
「ん。お兄さん、注文いいですか。ガトーショコラ1つとロイヤルミルクティー2つ。フォーク2つください」
「ありがとう」
「久しぶりに来たね、ここ」
「ガトーショコラでよかった?」
「うん、食べたかった、寒いから」
「寒い日のチョコレート最高だよね」
「ていうか、まだ恥ずかしいんだ、ケーキ頼むの」
「ガトーショコラくらいなら言えるかも。モンブランとか」
「言えないのもあるわけ」
「ミルクレープとかプリン・ア・ラ・モードとかタルト・タタンとかバナナクリームパイとか、言えない」
「なんで?」
「響きがかわいすぎるから」
「クールな顔してそんなことでびびっちゃうところがかわいーなー」
「甘やかさなくていいです」
「いつまでもそんなんだと、1人の時大変だよ」
「……まずこんな店、1人じゃ入れない」
「新しいひともこうやって頼んでくれたらいいねえ」
「うーん」
「どんなひとなの?」
「ちゃんとしたひとだよ、例えば」
「うん」
「目玉焼きにさ、醤油とかソースとか塩とか七味とかドレッシングとか、ちゃんとその日の気分でかける」
「ドレッシング?」
「大事なのそこじゃない」
「それは、ちゃんとしたひとだね」
「そう」
「いいひとだ」
「うん」
「どうしても塩で焼き鳥を食べたい誰かとは違う」
「あれは……って、そんなこともあったなぁ」
「今だから言うけど、つくねくらいタレで食べさせてよって思ってた」
「こっちに注文を任せたのが悪い」
「本当にどうしようもないことで怒ってたね」
「本当にどうしようもないことで笑い転げてたしね」
「この関係誰にも言えないから疲れるし、いいことばっかりじゃなかったけど、楽しかったなぁ」
「でも、長くは続かないと思ってたから思ったより長かったよ」
「まぁそれはそうだけど、さみしいよ」
「潮時だったんじゃない」
「……冷たい」
「あのさあ」
「何」
「わざわざ言わなくていいことだと思うけど、好きだよ」
「現在進行形? そんな負の遺産いらないのでお断りします」
「好きだったよ」
「過去形……。ダメ出ししておいてこう言うのもアレだけどそれもなんか、どうなの、」
「完了形」
「ああ」
「このドアを開けたら、ここから出たら終わり」
「……ガトーショコラ、おいしかったな」
「まだ一口あるよ」
「そういうことじゃない」
「最後まで食べないと」
「寒い日のチョコレートは最高だもんね」
「最高だった?」
「最高にするんだよ」


(どういう性別の組み合わせで読んだ?)