愛着のわく文字列の生成と、ネット遊びのお作法
「Facebookはじめたいから教えて」
「えっ普通にはじめたらいいじゃん」
「なんかお作法みたいなことがよくわからない」
「ふうむ、お作法」
「ソーシャルなんちゃら、みたいなもの、今まで一度もやったことない」
「そうかあ、じゃあちょっと横で見てる」
「なんでお父さん、Facebookはやろうと思ったの」
「会社の公式ページ?ができたらしいので」
「確かに。あるある」
「それをLikeしてよ、と社内通達が」
「その言い方重いw」
「結構周りもはじめてるっぽいんだよね…使ってはなさそうだけど。はじめただけで」
「へえ、おじさまたちが?」
「そうそう。普通に登録進めてるけど、これ名前、英語のほうがいいのかな」
「うーん、どっちでもいいけど、そのほうがいいかもね、海外も仕事で行くでしょう」
「でも中国じゃ使えないんでしょ?」
「そうだね使えない」
「それだとあんまりかもなあ…まぁとりあえずアルファベットにしとこう」
「本名でだいじょうぶ?微妙に省略させたりしてぼかす人もいるよ」
「…なんで?なにかまずいかな?」
「職場の人とつながる可能性があるってくらい」
「それは別にいいよ、だってもはや仕事用だもの。公式ページをLikeしたら終わりだし。使う予定ない」
「写真とかアップしないもんねえ。じゃあこのままで進めて」
「むしろ本名の方が気が楽」
「気が楽?」
「アカウントとかニックネームとか、自分で付けるの恥ずかしくて無理だよ。そういうの必要になるサービスは登録するときにもう嫌になってやめちゃう」
「なるほど、確かにねえ。それはそうだわ」
「本名でいいなら、アルファベットにするか漢字にするかひらがなにするか、くらいでしょう。それくらいを迷うレベルで限界」
「ネット活動してきてると愛着のある名前あるの珍しくないけど、そんなことないよね」
「ないねえ…むしろ自分で自分の名前付けるの抵抗ある」
「抵抗。」
「そこまで強くもないけど。名前を付けるって、緊張するじゃん」
「そんな重たくもないけどねえ、しょっちゅう変える人もいるし」
「その軽い感覚も、身につけていないからよくわからないところ。やっぱりパソコンは仕事するものってイメージが強いのもあるかな」
「アカウント持ってるのってなに?例えば」
「GoogleアカウントとAmazonと楽天と銀行関係…くらい?」
「ふむふむなるほど。別にTwitter本名でやってもいいじゃん。Gmailと同じようなアカウントで」
「まずね、そこまでして書きたいことやつながりたい人はいないね、みんなやってないしね」
「インターネットでコミュニケーションするのが一番便利なわけじゃないよね」
「パソコン開くのが特別な行為な人はまだまだたくさんいるよ、君の世代が俺たちくらいの年になれば別かもしれないけど」
「あと30年。」
「そうだそうだ、30年」
「長いなあ」
「そのころは、死んでるか、寝たきりかもしれない」
「わたしは無職か、野垂れ死んでるかもしれない」
「もし寝たきりになったら、インターネットで遊べるよう努力するよ」
「いくらでもお教えしましょう」
「まぁ、しばらくは大丈夫そう」
「とはいえ、父上、いい年ですし、無理せず元気で暮らしなさって」
「大事ですね」
「大事ですよ」
「はぁ、冬だねえ」
「うん、寒いから今日もインターネットして過ごそう」
「いつもでしょう」
「いつもだけど」