インターネットすやすや

嘘ときどき現実、見方により法螺話となるでしょう

LIFE-LINE-DEAD

そういえばLINEをいれたんだけど、こないだすごいことがあって。

あれさぁ、接続すると自分のアドレス帳の知り合いがどんどん出てくるじゃない。しかもニックネームだとか本名だとかまぜこぜで登録されるじゃない。

わたしアドレス帳全然整理してなくて、中学の知り合いとかまだいっぱい入ってるわけ。LINEに並ぶ名前をパラパラ見てたら、死んじゃった知り合いの名前があったの。超びっくりして。なにこれ。あ、別に近しい仲だったわけじゃないんだ。中学の卒業の時、なんとなくいろんな人とアドレス交換するじゃん。あの頃Facebookとかなかったし、mixiも使ってなかったし、つながる手段って圧倒的にケータイだったから。とりあえずした、くらい。名前と顔は覚えてる、でも教室以外で会ったことは、きっとないの。彼、数年前に事故でなくなったのね。大学3年かな。えっと、わたしそのとき留学してたから、うん、あってる。だから葬儀とか行けなくて、人に聞いたんだけど。同じような年の、同じ場所で空気吸って会話も交わした人がこの世からいなくなるって、はじめてで。ぞわっとした。この程度の仲で泣くのも失礼でしょう、だからどう収拾つけたらいいのかわからないよね。失礼な話だけど喪失感とか悲しさとかとも違うよね。強いて言うなら、人は案外簡単に死ぬんだなーっていうかさ。唐突に。実感もなく。ケータイから消そうにも、消せないじゃん。当時彼がすきだったバンドの名前をもじったメールアドレスとか、消せないじゃん。恋? いやいやそんなんじゃなくて。もっと中学生でいた時間全部への哀愁っていうかさ。そういうぼんやりしたものだよね。かぶさってきてたものは。

で、まぁ、LINEで彼の名前を見つけたのよ。「友達かも?」とか言われて、えええっ、て思って。こわいっていうか不思議だった。SFみたいじゃない? 天国にメッセージ送る、みたい。あるいは「ほしのこえ」? セカイ系すぎるね、うんうんごめんごめん。電話番号がデータベース化されてるって調べたらすぐわかったんだけどさ。電話番号って、最近は使いまわされてるんだねえ。彼はわたしとアドレス交換したあとにケータイ変えてたかもしれないし、もう違う人が使ってても全然おかしくないよね。あーなるほどな、以前のこの「番号」の持ち主が今この世にいないことなんてまったく知らないまま、使ってる人がいるんだなぁって思って、ちょっと不思議な気分になった。データでは交わってるのに、絶対に交わることのない人たち。漫画みたいねこの言い方。大仰すぎる? わざとだよ。

そんなことをぼんやり考えてたらさ、彼から少し前に、着信履歴が残ってたんだよ。心臓止まりそうになった。わたしついに天国への扉ひらいちゃったの!? って感じですよ。はい、言い過ぎたね。まぁ呆れないで聞いてよ。あ、彼って、アプリ上の“彼”ね。もちろん違う人だよ。名前も住んでる場所も年齢も知らないし、別にいらないし。名前だけ“彼”ならそれ以上の情報は野暮。数日は放っておいたんだけど、その時すごい暇してたから、つい出来心でメッセージ送ってみたんだ。なんか10年前の掲示板とかチャット文化みたいでドキドキした。「こんにちは、いきなりごめんなさい、○○くんですか?」って。違うに決まってるんだけど。だってもう死んでるし。わたしはそれを知ってるし。

返事来ないだろうなーって思ってたら来てさ。「ごめんなさい、違います。あなたは△△さんですか?」って。違うんだけど。こっちも違いますって返して。さすがに終わりだろって思ったら、向こうも暇だったんだろうね、また返信来たんだよ。

「すみません、中学の頃付き合っていた彼女の名前で表示されて、ちょっと驚いて電話してしまいました。全然関係ないですよね、ご迷惑おかけしてすみません」。

……うわーって感じだよ。すごくない?

わたしは死んだ彼とメッセージしているように見えてて、彼には昔のーもしかしたら初めて付き合った子かもしれない、初恋の女の子かもしれないー彼女とやりとりしているように表示されてるんだよ。なんか、すごいじゃん。こうなると実体なんて飾りだよね。ディスプレイに表示される名前の密度と迫力だけが、異様に強い。“本当の”相手が誰かなんてもうどうでもよいよね。自分がそう信じちゃえば相手はその人になるね。名前って、強いね。この感覚はじめてで、すごかった。

そこで、そうです△△です、って答えてたらどうなってたのかなぁとかちょっと思う。何食わぬ顔で他人の名前を語って話しても、気づかなかったかもしれないね。もしかしたら思い出をめくり返す方が一瞬でも幸せになったかもしれないなーとか。わたしは“彼”が死んでることを知ってたからそんな風なこと求めていなかったけど、思い出の中の人がどこかで元気で生きてることを祈った、わたしのディスプレイには死んだ“彼”の名前で表示されてる男性の期待は宙に浮いちゃったな、とか。出会い系のサクラとか、こんな感じで他人の人生に関わるのかしら。なんて、下衆な方に話を持っていくのはやめるけど。でもそうやって救われる人、もしかしたらいるかもしれないね、って。

え、そのあと? 別にどうもならないよ。漫画だったらどうにかなるんだろうけど。さすがに、そこまで現実はファンタジーじゃないね。でも、メール送ってる相手がどんな人かなんて、生きてるか死んでるかなんて、実はわからないよねえ。普段も。そう思うとちょっとファンタジック。

っていう、おもしろがってもらえる人の範囲が超狭い話でしたー。